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ISHINOMAKIの視点
#03
この街で公共施設の
未来をつくりたい

text and photo:kuniyoshi katsu

ISHINOMAKI2.0」での活動の様子を、現地に拠点をおく建築家・勝邦義さんの視点でお届けする連載シリーズ。3回目の今回は、公共施設に関する勉強会を通して、石巻という街の未来像を考えます。

 

公共建築の未来は市民の手のなか

 2016年の夏、石巻の有志によって公共施設の勉強会「石巻の文化施設を考えたり語ったりする会」が発足した。なんて言うと、とても立派な活動のようだけれどもやっていることは、公式には何の後ろ盾もないが文化施設に対して期待を抱く人たちが集まり、他都市の文化施設やその運営について学んだり、石巻らしい公共施設のありかたについてを考える会だ。

「石巻の文化施設について考えたり語ったりする会」の模様/2016年8月 (筆者撮影)

 2011年の東日本大震災で被災し解体された<石巻文化センター>と<石巻市民会館>。その復旧を目的とし、ホールと博物館機能をあわせもつ複合文化施設が、2020年度開館に向けて準備を進めている。
 2016年にプロポーザル形式で設計者の公募があり、東京の「藤本壮介建築設計事務所」を中心とする設計共同体が選定された。三角屋根の建物が横に連なる特徴的なプランの施設は、東北最大級の応急仮設住宅群が立ち並んでいた開成地区に完成する予定だ。

石巻市複合文化施設基本設計業務プロポーザル公開プレゼンテーション/ 2016年10月(筆者撮影)

完成イメージ図/藤本壮介建築設計共同体 (石巻市HP)

 石巻に移住後、劇団を立ち上げた演出家で俳優の都甲マリ子さんとともにはじめた勉強会「石巻の文化施設を考えたり語ったりする会」には、声をかけると演劇関係者だけでなく伝統芸能やニューカルチャーに関心のある人、民間で文化施設を運営している人など、多様な人たちが集まってくれた。
 「石巻の文化施設について考える場をつくる」というテーマで、こんなにも人が集まるということがとても興味深く感じられた。同時に新しい公共施設に、多くの人たちの関心が向けられていることも実感することになった。
 勉強会は月に1回ほどのペースで行われ、先進的な運営を実践している国内外の公共施設や公共空間を事例に、公共施設の今日的な役割について議論したり、勉強会を通じて知り合った人たちと、近隣の文化施設へ見学にも行ったりした。
 そのなかで、岩手県北上市の<さくらホール>はその利用率の高さと、活動の多様さに驚かされた。「ファクトリー」と呼ばれるスペースに大小のスタジオが散りばめられ、稼働率9割以上で貸し出していた。個々のスタジオでは活動の様子が共用部から見られる。バンドのライブや、ダンスの練習、セミナーなどそれぞれ違うジャンルの活動が共存していて、なんとも大らかでにぎやかな光景だった。

 

文化の殿堂から社会包括の中心へ

 勉強会を通して、いろいろな公共施設に足を運ぶうちに、大きくふたつの指針で公共ホールがつくられているように感じられた。
 年に数回の大型公演に向けて、「ハコ」としての機能を充実させ、多くの人たちにとって日常とは違う特別な体験が得られるようなホールがある。その一方で多くの市民が日々の生活のなかで親しみをもって日常的に利用をする公園のようなホールもある。
 よそいきの場になるか、それとも日常的に市民に向けた市民のための活動の中心の場になるか。昨今の公共ホールはスペクタクルを提供するだけではない役割が求められているようだ。 
 宮城県大河原町に位置する<えずこホール>に訪れた際に、センター所長の水戸雅彦さんは「これからの公共ホールは『文化の殿堂』として地域に文化を供給するというよりも、市民の活動の中心として社会包摂の中心になる。石巻ではそうしたホールを目指すべきだ」という示唆的な発言をしていたのが興味深かった。 
 ほかにも先進的な公共ホールの経営者たちを石巻に招き、たびたび意見の交換をした。とくに<いわきアリオス>を運営する大石時雄支配人との対話は刺激的だった。いわきアリオスでは、施設を飛び出し、いわきの街や公園にまで、公共施設のワクにとどまないプログラムを展開している。
 ホール運営の先には、その施設が位置する街があることに気づかされたし、加えて施設運営の信念のようなものが日常的な運営の細部にまで行き届いていて感銘を受けた。

いわきアリオス支配人大石時雄さんとの意見交換会 のリリース/2017年4月

いわきアリオス支配人大石時雄さんとの意見交換会の模様 /2017年4月(筆者撮影)

 並行して石巻市が主催するワークショップに勉強会の有志と共に参加した。
 さまざまな立場の人と意見を交わし、その後にワークショップに参加できなかった勉強会のメンバーに向けて、ワークショップでの議論を共有した。
 市主催のワークショップには、これまで文化センターや市民会館を利用していた人だけではない、高校生から高齢者までの幅広い世代が駆けつけていた。
 なかでも石巻の演劇関係者からはホールに対しての熱い要望が聞かれた。それは、あくまで最低限の設備と自由度の高い場を望み、過剰な設備を要求するのではなく、その替わりに利用料を考慮してほしいという内容だった。
 えてして要望のぶつけ合いになりそうなワークショップの場で、使い手としての覚悟やアイデアを示すことが共創的な場に変わるきっかけになることにも気づかされた
 複合文化施設の開館まで残り2年余り。継続的にいろいろな人たちが関われる場をつくりながら、新しい公共の場が生まれることを盛り上げていきたい。

市主催のワークショップの様子(筆者撮影)

 
文化財は生きた公共施設になれるか

 「石巻に文化施設ができるのであれば、できる限りのことはしたい」と始めた取り組みだが、こうして公共の場との関わり方を手探りで行っている間に、実際の公共施設を運営できる機会に恵まれた。
 石巻市の中心地に位置する市指定文化財<旧観慶丸商店>。この文化施設の指定管理の運営業務が4月からスタートしている。
 この施設の指定管理者の公募があることを、勉強会の参加者から聞かされたのは昨年10月だ。私が所属するまちづくりプラットフォーム「ISHINOMAKI2.0」で急遽準備を始め、数週間後にプロポーザルにのぞんだ。その結果、選定されるに至った。今後は、文化施設を自分たちの手で運営し、公共施設の可能性をさらに深掘りしていきたい。

旧観慶丸商店

 約80年前、石巻で最初に生まれた百貨店だった旧観慶丸商店は、2011年の東日本大震災で被災し、市に寄贈された。その後、耐震改修工事がなされ、2016年に指定文化財としてリニューアルオープン。タイルが散りばめられた趣深い外観には行き交う人たちの目をひく力強さがあり、看板建築の特徴を色濃く残した建物だ。現在は、1階が貸ホール、2階は市が企画運営する展示スペースとなっている。
 ながらく街の中心に位置し、その特徴的な外観が街のランドマークとしても認知されてきた。旧観慶丸商店は、復興計画で少しづつ変化している街と呼応しながら、新たな役割をもたせることが求められている。
 これまでに地元高校生が主催するファッションショーや「石巻ウェディング」がプロデュースした結婚パーティが開催された。今後も毎月定期的に開催されている朗読劇や、秋には芸術文化祭や演劇祭が予定されている。
 石巻で初めての百貨店という建物を起点に、「文化の百貨店」をつくっていくことができればと考えている

地元高校生によるファッションショー

ウェディングパーティの様子 (写真提供:石巻ウェディング)

ウェディングパーティの様子 (写真提供:石巻ウェディング)

 

文化施設を動かす主体を増やす

 私が石巻に関わるようになって6年、これまでにいくつかの拠点で運営を手がけてきて、運営は続ければ続けるほど広がりが生まれ、関わる主体が増えていくことを実感させられた
 公共施設の場合は、そこに公平性や公共に資する安定性が必要であるし、なによりも変わりにくさがある。つまりは一度つくったものに対して変えられることは少なく、市民は施設の利用者としての関係性に固定される。
 ワークショップなど、プロセスでつくる議論を重ねてきたのにも関わらず、運営が始まるとある種の断続が発生するわけだ。このギャップをどれだけ埋められるかがとても大切なこととなる
 旧観慶丸商店の運営に関してはまだまだ始まったばかりだが、よそ行きの場所ではなく、多くの人にとって積極的な関与が生まれる場所であってほしい。そのためには「文化施設と日常の接点をつくる」をつくることがとても重要だ
 いつの間にか完成して「どうぞ使ってください」というような公共施設ではなく、「市民も同様につくってきた」と言えるような、そんな公共施設のつくられ方、その後の関わり方をつくっていければ、多くの施設が有益なものになるのではないかと思う。【了】

 

これまでの記事
ISHINOMAKIの視点#01「寛容な公共空間は街を変えるか?」
ISHINOMAKIの視点#02「小さな自転車とサークルツーリズム」

profile
勝 邦義 Kuniyoshi Katsu

1982年名古屋生まれ。2007年東京工業大学卒業。2009年ベルラーへ・インスティチュート修了。山本理顕設計工場、オンデザインを経て、2016年勝邦義建築設計事務所を設立。ISHINOMAKI2.0理事。