update

〈oneday open!〉の軌跡、
弘明寺で試みるストーリー。

text:satoshi miyashita  photo:ondesign

今年10月、横浜・弘明寺にある商店街を拠点に行われた「oneday open!」。このイベントは、横浜弘明寺商店街の一角に佇む旧ビルをワークショップなどの場として活用し、商店街の店主、学生、住民らと連携しながら、街に新たなにぎわいを生み出そうする試み。今回は「oneday open!」開催までの顛末をレポートします。

 

 
弘明寺を知っていますか?

 「oneday open!」の拠点となった「GM2ビル」と「水谷マンション」は、横浜・弘明寺に拠点をおく不動産会社・泰有社による所有物件。
 昨年(2016年)末のある日、泰有社の伊藤康文さんからオンデザインに「GM2ビルの2、3階が空きスペースになっているので、一度、現場を見てほしい」という連絡があったのがはじまりだった。GM2ビルの前身は、昭和38年竣工の大手デパート「長崎屋」の商業ビルだ。
 バブル崩壊によって長崎屋の経営が破綻すると、ビル自体が売却され、オーナーも何度となく交代を繰り返えしてきたという。
 泰有社は今から11年前の平成18年、このビルの物件取得を果たす。そして、名称も「GM2ビル」と改め、これを機に本社を4階に移転させた。泰有社の伊藤さんに話しを聞いた。
 「私たちとオンデザインは、横浜・関内にある『泰生ポーチ』でプロジェクトを組んで以来の付き合いです。オンデザインの西田 司さんとは、横浜エリアにある弊社所有の物件のリユース案件で、よく相談をしていました。弊社のある弘明寺の『GM2ビル』についても、当初は改修の方向で話をしていたんですが、どんどん広がっていって(笑)」
 GM2ビルの最寄り駅は「弘明寺」。京浜急行と市営地下鉄、それぞれの駅から徒歩圏にある。
 いずれも関内駅まで約10分、横浜へは約20分程度、東京都心にも1時間程度でアクセスできる立地だ。周辺には、ここ数年、新築の建売り住宅やマンションが次々と建てられ、いわゆる東京、横浜のベッドタウンとしても注目度を増している。
 弘明寺商店街の近くには、創建約1300年という横浜最古のお寺「瑞應山蓮華院 弘明寺」が鎮座し、元日から大晦日まで年間を通してさまざまな恒例行事が街ぐるみで開催されている。また商店街の中には、老舗の呉服屋や和菓子屋などが軒を連らね、子供からお年寄りまで幅広い層に親しまれている。
 かつてこの周辺がお寺(弘明寺)の門前町だったということも商店街の成り立ちに大きな影響を及ぼしているのだろう。
 ちなみに商店街の天井は、いわゆる屋根付きのアーケード型。このアーケード部分は1956年(昭和31年)に設置され、当時は全長270m(現在は310mに改修)という長さゆえ、東洋一を誇っていたのだとか。

アットホームな街並みにある未来

 泰有社からの相談を受けてほどなくすると、西田さん率いるオンデザインのスタッフら数人は現地を訪れた。そこで西田さんは弘明寺商店街を初めて目の当たりし、「いい雰囲気の街だなあ」と思わずつぶやいたという。同行したオンデザインの塩脇 祥さんも傍らでその言葉をうなずきながら聞いていた。
 「街並みや住民の方々の表情を見ていると、どこか懐かしくてアットホームな印象を受けたんですよね。たぶん、泰有社の伊藤さんや、ここに暮らしている方々にとっては日常の風景なのでしょうが、僕らにとってはとても新鮮な感動でした」と塩脇さんは言う。GM2ビルを視察し終わると、その後、予定にはなかった同じ泰有社所有の「水谷マンション」も内見することに。
 「ふたつの建物には大きなポテンシャルを感じました」と塩脇さんは、すこし興奮気味に初見したときの印象を話してくれた。
 視察後すぐに、西田さんからは弘明寺のプロジェクトについてどう進めるかを考えてほしいと指示があったという。

対話からすべてがはじまった

 年が明け2017年になると、泰有社とオンデザインとの間では、弘明寺プロジェクトについて頻繁に意見交換するようになっていた。そして、泰有社の伊藤さんからある提案が投げかけられた。
 「GM2ビルの2、3階は遊休状態のまましばらく閉ざされていたわけで、せっかくオンデザインと一緒にやるのなら、急いでリーシングを考えるより、もうすこし別の使い道を模索してもいいのかもしれませんね」
 「それなら街自体をきちんとリサーチするところからはじめてみませんか」
 伊藤さんの言葉に、担当の塩脇さんもすぐに返答したという。
 「僕は神奈川大学の建築学科で都市計画を専攻していたので、学生時代から街のリサーチを実体験していました。学生たちには授業の一環として、リサーチ作業に参加してもらえれば、お互いにとってもメリットですよね。さっそく僕が在籍していた山家研究室の山家京子先生にお声掛けしたら、ふたつ返事で快諾をいただいたんです」(塩脇さん)
 かくして2017年4月、神奈川大学建築学科山家研究室の学生メンバーとオンデザインとの恊働により、弘明寺商店街周辺のリサーチ活動がスタートした。
 そして2ヶ月後の6月下旬には、山家研究室の学生、商店街組合、お寺、泰有社、オンデザインとで、「弘明寺を考える会」を発足。

 毎週ごとに定例会議が行われるようになると、次第に「こんなことをやってみたらどうだろう」という前向きな意見も活発に交わされるようになった。
 オンデザインと学生たちから「GM2ビルと水谷マンションのふたつのビルを使って、何か住民参加型のイベントを企画してみてはどうか」という意見が出たときも、反対する参加者はいなかったという。
 それは「とりあえず、やってみましょう」というムードが「弘明寺を考える会」の中にはつねにあったからだ。ここ数年、お寺や商店街組合の店舗は代替わりの時期を迎えている。
 「新しい提案に、代替わりした若い世代が比較的寛容だったことも、『oneday open!』が実現した大きな要因だったのかもしれませんね」と塩脇さんは言う。

 そして7月が過ぎ、「弘明寺を考える会」はイベント開催に向けて本格的に動きはじめた……。


DATA
イベント会場:水谷マンション1階、GM2ビル2階、3階
内容:子供とあそぼ!ペイントアート/模型づくり、多肉植物ワークショップ/あんなこんな弘明寺ムービー/私が思う弘明寺/弘明寺instagram、弘明寺マップ/街中に出現中!!「one dayボード」
主催:「弘明寺を考える会」泰有社 神奈川大学 オンデザイン
協力:瑞應山 蓮華院 弘明寺 横浜弘明寺商店街協同組合