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Book Log
#02
オンデザイン読書会
テーマ「居場所」

text:aya sakurai  photo:ondesign

 

居場所と余白

櫻井 住宅のヒアリングで、お施主さんがどんなモノやコトが好きなのか、日常生活をどんな風におくっているのかを聞いたりしているけど、これって家の中での居場所、その場所のつくり方を意識的に探るようにしているのと同じかなって思います。「こんな居場所が欲しい」と言葉にできるお施主さんは少ないように思うから、好きなモノやコトを伺いながら、思い描いている居場所をつくるきっかけを小さいところから見つけるようにしている感じがするんです。
 私が担当している「稲毛海岸三丁目団地」のプロジェクトは賃貸だから、住む人を想像してつくるけど、そこが自由だからこそ難しくて、誰が住むかわからないけど住む人にとって居場所にしやすいようにその手がかりだけをつくることにしました。

西田さん(中央)

西田 自分の居場所として捉えようとすると、神奈川大学国際学生寮プロジェクトや津久井のプロジェクトのように不特定多数の人が使う施設では、居場所とセットで“余白”を考えるべきだと思う。例えば、ある空間に対して決められた範囲以上のスペースを用意してあげることで、ちょっとはみだした行動とか活動も許容できるようにする。それは、その人がその空間の中で自由にふるまえる場所を増やすっていうことだでもあると思う。伊藤さんがやっている「みなまきラボ」の運営やイベントとかにも、その余白の考え方ってありますか?

伊藤 余白は絶対つくりますね。「全部を用意してあります!」っていう見え方はダメだと思っていて、例えば、以前、みなまきラボでマルシェを開催した時、こちらで全部計画して、「参加してください!」という風にはせず、街の人にもどういうコンセプトでマルシェを開催するか? 名前は何にするか? を一緒につくり上げました。全部こちらで計画してしまうと、自分ごと化できず継続も難しくなるので、ちゃんとその街の住民が入る余白は残していこうとは意識しました。
 まちづくりってオンデザインがずっと関わり続けるわけではないから、長期的な目線で考えた時に、オンデザインがすべて計画して、「こんないい街ができました!」ではなく、オンデザインはあくまでも後押し役で、自分たちの力でできているって思ってもらうことが大事だなと。

櫻井 そう考えるとスナックは余白が多いように思う。

西田 確かに。

櫻井 カラオケもできるし、ママは自分と話してくれる時もあれば違うお客さんと話ている時もある。つかず離れずな感じで。

伊藤 ほどよい距離感ですよね。

 

居場所のつくりかた

櫻井さん(中央)

弁当包みは竹の皮にしようと思う(※一部抜粋)

私が公園にお弁当を持っていくとしたら、買ったものじゃなく作ります。前みたいにいろいろは作らないけれど、おにぎりぐらいは握ります。でももう、お重には詰めない。あれ、けっこう重いのです。帰りはなるべく手ぶらがいいと思う。ゴミを持ち帰るとしても軽いのが良いし。だから私は竹の皮でおにぎりを包むことに決めました。

「日々が大切」より抜粋

櫻井 上の文章は公園に居場所をつくろうとして自分から歩み寄っている行為だなと感じました。公園に一瞬だけ自分の居場所をつくっている感覚。

西田 都市にある公園って大きな余白みたいなもので、本当は地域のためにつくられているはずだけど使い方に規制があって誰のモノでもなくなっている。『自分の居る場所』に登場する伊藤香織先生は、もう一度、市民の手に取り返そうと、公園でピクニックをやっています。その乗り込んでく感がすごくて。

全員 (笑)

櫻井 本来、公共施設は自分だけが使うわけではないから。人の行動を受け止めてくれる余白の部分が大きいはず。

伊藤 私は居場所って、職場/自宅/公園っていう行動の種類による区別ではないと思っています。

櫻井 確かにそれこそ居場所の特徴かもしれませんね。

伊藤 家の中でも居場所はつくれるわけだし。

鶴田 どこでもつくろうと思えばつくれますよね。

櫻井 いろんなスケールで居場所が存在しているような。

西田 でも、居場所って領域の話なの? 範囲はあるような気がしているけど。誰のものでもない場所、それを余白と呼ぶのだとしたら、その余白に対して乗り込んでいく、能動的な動きがあるかどうかは大きいよね。

伊藤 自分のものにしているという、その感覚が大事なんだと思うけど。

鶴田 例えば、子どもって自分の場所をつくるのがすごく上手いくないですか。

西田 砂場に線を書いたり、秘密基地だったり、手を広げるってことだったり……。ピクニックをした公園が自分の場所に思えるとか、好きなものを自分の身の回りに置いてみるとか、そういった行動の結果、自分の場所っぽくなっているのかなと思う。「空間をどう使うか」を自分で考えること、それが居場所をつくり出しているんじゃないかな。
 僕たちの仕事って、例えば「神奈川大学国際学生寮プロジェクト」の共有部に選択性があることだったり、2・3人でしか集まれないところと4・5人で集まれるところ、もっと大人数で集まれるところっていう規模のことだったり、トップライトに近いとか、吹き抜けが全部見上げられてちょっと開放的とか、単に余白を残すっていうことより、そういう手がかりや環境をつくることかもしれない。
 ピクニックでも、公園の中でも、「何かしたい!」って思った時に受け止めてくれる場所があるように、能動的に動けるきっかっけみたいなものを、空間にもイベントにも、埋め込んでおくって大切なのかなって。

伊藤 子どもの時は領域的な居場所で終わっていたけど、人とのコミュニケーションを意識しはじめると、居場所自体の共通点を探して広げているように思う。スナックや居酒屋、公園でも。

鶴田 言葉にしているからこそ広げられている。

伊藤 言葉以上に、何か共有できるものがありそうだけど。

櫻井 最近は場所性がゆるくなっているような気もします。

鶴田 なるほど。

伊藤 それ考えたらスナックのママって、すごいコミュニティマネージャーな気がします。

全員 確かに!

 


profile
鶴田 爽 (つるだ・さやか)1992年兵庫県生まれ。2016年京都大学大学院修了。
伊藤彩良(いとう・さら)1993年岐阜県生まれ。2016年静岡文化芸術大学卒業。
西田幸平(にしだ・こうへい)1991年奈良県生まれ。2016年東京理科大学大学院修了。
櫻井 彩(さくらい・あや)1991年千葉県生まれ。2016 年千葉工業大学大学院修了。