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これからのアパート、
これからの地域 ・前編

text:satoshi miyashita photo:kouichi torimura 
illustration:awako hori 

竣工8年目をむかえた今も、住まいの新たな可能性を提案し続けているヨコハマアパートメント。
1階の共有スペースと2階の賃貸4戸からなる建物には、つねに新風を吹き込もうとする住人と、
その可能性を共に楽しむオーナーとの終わりなきセッションが宿る。
今回は、そんなヨコハマアパートメントのこれまでとこれからを、
建築家・西田司さんとオーナーの川口ひろ子さんとで前後編の2回に分けて語り合ってもらった。
@ヨコハマアパートメント

 

クリエイティブな日常

西田 ヨコハマアパートメントは竣工して8年が経ちました。1階が共有スペースで、2階には住戸数が4部屋あり、竣工以来、計14組の入居者が住んでいます。もちろん年齢も職業もさまざまです。

川口 なかでも建築系の方が多いのはオンデザインの影響ですね。

西田 まぁよく言えば、彼らは協調性があるというか、一緒に住むことに能動的というか。

川口 結果、大家である私に使われ過ぎているとも言えます(笑)。

西田 いえいえ、川口さんは店子思いで、大家さんなのになぜかアパートの住人を娘や息子のように可愛がってくれます。そう言えば、月に一回、定例の入居者会議があるのですが、川口さんはポトフを前日から煮込んで用意してくれていたこともありましたよね。

川口 あれは会議が夜だったから。

西田 入居者が昼間だと揃わないから、夜にやったんでしたね。

川口 自然にみんなとご飯食べてましたね。

西田 一応、会議の際は、各自食べ物を多少でも持ち寄ることになってはいるんだけど、いちばんたくさん用意してくれたのが川口さんでした。

川口 べつに決まりごととかはないのにね(笑)。

西田 確かに、「会議ではオーナーが料理をつくる」って契約書のどこにも書かれてないですからね。

川口 勝手にやっているだけです。でも、それもこれも今思うと、竣工して最初の1年間、西田さんファミリーがここに住んでくれたのがやっぱり良かったんだと思います。

西田 なんとなく住んでみてわかることってあります。竣工した2009年は、ちょうど僕の子供が2歳の頃で、19平米の部屋に家族3人で入居しました。不思議なもので、毎日のように子供が建物の周りで遊んでいると、地域の住民が足を止めて寄ってくるんです。数日もするとおばちゃんからミカンとかもらったりして(笑)。そんな時、子供がもっている愛くるしさって、すごいなぁって思いましたね。
そう言えば確かヨコハマアパートメントのオープニングイベントでは、共有スペースで、アーティストの丸山純子さんが『ZZ(ゼットゼット)のはじまり展』と題して、石鹸によって泡を発生させるインスタレーションをやっていましたよね。

川口 いきなり周辺の住民の方々から怖がられたけど、地域の子供たちは石鹸の泡に興味津々で、むしろ楽しんでいました。

西田 水と油と石鹸から泡を量産させるというインスタレーションで、キッチンが油まみれになって、そこに虫が寄ってきて……。翌朝になると虫の死骸だらけになっていたという。いや〜あれは、いい作品でした(笑)。

川口 パフォーマーの村田峰紀さんも、竣工間もない流し台を使って、書物を洗ったりして。

西田 あれは、いわゆる思想的なパフォーマンスでしたね。

川口 「う〜ん」って唸りながら(笑)。オーナーの私としては、「新築の流し台がぁ〜」ってちょっと複雑な気持ちになりましたけど。

西田 この8年間、いろんなことがありましたね。ヨコハマアパートメントでは、共有スペースを使う際のルールも、住人がその都度、話し合いながら決めてきました。たとえば1階にある共有トイレの掃除を当番制にするのか、その都度、使った人がキレイにするか、とか。ちなみに現在は入居者会議の日に掃除をするというルールで落ち着いています。あと、共有スペースで宴会をやって、「今、何時だと思っているんだ!」と隣人から2度怒鳴られたことがありましたよね。一度目は23時に怒られて、翌日、22時半にも怒られて、結局、22時くらいで、「あ〜このくらいまでなら話していても大丈夫かな」みたいな。

川口 夜は最近21時くらいで落ち着いていますね。

西田 そうやって周辺の住人に時々怒られたりしながら、さまざまなルールがゆるく決められていった感じですね。