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ボクたちの
“ライフ”と“ワーク”は
どうなるのか?#01

text:satoshi miyashita photo:akemi kurosaka
 illustration:awako hori 

カルチャーを醸成すること

ウエスギ)アメリカでは、中古のスクールバスを購入して、家族で旅をしながら、そこで仕事も生活もするみたいなケースが増えていますよね。昔はヒッピーがやっていたことが、今はインターネットの普及によって、場所に縛られない働き方ができるようになった。「The Big Blue Bus Tour」という、旅をしながらの生活のシーンをアップするサイトもあるくらいです。あとアメリカの20代に流行っているのが、フォルクスワーゲンのバンを改造してインスタで見せ合う「Vanlife」。何百という事例をまとめた書籍も出版されています。ちょっと前に有名になった年俸2億円のメジャーリーガーもバンで暮らしていましたし。旅をしながら自然の中で自分のライフスタイルを選択する人たちは着実に増えているんだと思います。

西田)あ、メジャーリーガーの方は有名ですよね。

ウエスギ)こういう潮流がアメリカを起点に生まれていて、その流れなのか、日本でも、最近カーリノベーションの領域が注目されるようになっています。なんかいろいろはじまっている感じですね。

西田)僕はつい最近まで、BMW のMINI LIVINGの仕事で、「リビングを外へ持ち出す」という企画に関わっていました。「Vanlife」のカジュアル版のような提案だと思ってくれると分かりやすいでしょうか。さっきの話のように、住み方は住み方、働き方は働き方って区別するのはなくて、そこにはじつは接点がたくさんあって、オフィスでランチを食べるし、休憩もオフィスでするし、夜は周りに自然があれば火を囲んでひと息つくのも気持ちいいし。

さわだ)確かに。僕もスタッフもよくここ(BETTARA STAND 日本橋内にあるタイニーハウス)に泊まっているんです。今日もじつはひとり泊まったやつがいましたね(笑)。シャワーも付いているし、近くには銭湯もあるから快適です。で、それをやっているとまるで自分の家を住み開きして、コミュニティスペースをつくっているような錯覚に陥ることがあります。毎日たくさんの友達が家に遊びに来てくれるような。じつは、これってすごく気持ちいい暮らし方なんじゃないかなと思って。

BETTARASTAND日本橋のタイニーハウス内はYADOKARIのオフィスにもなっている。

ウエスギ)ここは僕らにとってはオフィスでもあるんですけど、夜はバーになっていろんな人が介在する場にもなります。ガヤガヤしながら新しい接点が生まれたり、とくにオープンテラスになっているから、より気持ちいいのかもしれないですね。これってべつに都会じゃなくても、地方の豊かな自然の中でやりはじめてもいいのかなって思っています。

西田)冒頭のふたりのお話の中で印象的だったのは、カルチャーの醸成があったほうがいいという点。つまりディベロッパー側が駐車場で使っているよりも、ここから新しいイベントや交流が生まれたりするほうがいいと考えている。僕はそういうカルチャーに関心があります。地域の中に場所が生まれたときって、商業的な意味での交流ではなくて、土地に対して継続的に関わるっていう部分に「文化性」を感じるんですね。せっかく神社の境内にある場所だからコミュニケーションがどんどん生まれたらいいなと思いました。いわゆる新しい商業施設ができましたっていうことではなく、生活文化を発信し続けて行くという意味でも、それってすごく大事なんじゃないかと。

この先のプロジェクトについて、3人のクロストークは続く。

 

面倒くささと生き方の本質

さわだ)ディベロッパー側からお話しをいただいたときに思ったんですが、ここは近くに首都高が南北に走っていて、その西側は資本主義の象徴のように大規模商業施設がいくつも建ち並びます。洗練されているけど隙がなくドライな印象。一方、こちらの東側は基本オフィス街となっていて、あまりにぎやかさを感じないものの、老舗店舗など昔ながらの風景が点々と残っていて。老舗の旦那衆にお話を伺うと、今でも昔ながらの濃いコミュニケーションや「粋」を大事にする文化が残っているということでした。だから最初に場所づくりのプレゼンをしたときは、人と人とが顔の見えるコミュニケーション、膝を突き合わせて会話できる場にしたい、街の人が場所づくりに関われたり、みんなで文化をDIYしていていける「余白」を醸成したいと提案しました。また日本橋という場所柄、ここから商いを始める人に増えて欲しい。僕らの周りでも最近小商いをやっている人が増えています。パラレルキャリアとか副業的な部分が注目されていますよね。平日は会社員だけど土日はカフェや本屋をやっているとか、いろんな働き方が増えています。この場所でイベントやチャレンジショップなどを通じて、そんなライフスタイルを応援していきたいですね。

西田)昔はそういう副業的な考え方って、ちょっと面倒くさい感覚があったと思うんです。でも、今は「やることがよし」とされているし、そこで生まれたコミュニケーションのほうが会社でのコミュニケーションよりもちょっと自分の本質に近いというか。

さわだ)自分の生き方にすごく近い感じはしますよね。

西田)うん、うん。

ウエスギ)インターネットでいろいろと合理化したけど、DIYでお店をつくってみり、面倒くさいことにこそコミュニケーションは発生するし、じつはそこに生き方の本質がありそうな気がしています。

さわだいっせいさん

ウエスギセイタさん

さわだ)家もそうですね。僕らは、建売りよりかは自分の手で家をつくるほうがはるかに愛着も湧くと信じています。だからDIYというプロセスは飛ばさないように、大事にしたいなと。

ウエスギ)できれば周辺の住民も一緒になって、家をつくれたらいいと思っています。

さわだ)やっぱりその中心にはコミュニケーションがあるんですね。

西田)例えば、すこし前までの日本には、大工さんたちの働く現場で、子供たちが遊んでいた時代がありました。今は仮囲いされているから、建物は突然2×4(ツーバイフォー)で2ヶ月くらいで完成します。もちろん、それによって安全性や品質の性能値は高くなっているのは、僕も建設業界にいるので分かるんです。ただ、それももはや工業製品として成熟しきっています。最近は、家づくりに介在したいっていう人が増えていて、自分でペンキ塗りたいとか、壁つくりたいとか、もっと現場を見たいとか。つまりオーガニック料理と一緒で、どこそこで買ってきた素材を使って調理したほうが楽しいし、ストーリー性もあるわけです。でも、相変わらず性能いいですよ、工期早いですよと、それをすすめるビジネスパーソンがいるんですね。ただ、そうしたビジネスパーソンもいったんスーツを脱いで一般の生活者になった瞬間に「いやいや、オレもうちょっと面倒くさくてもいいから、こっちがいい」とかって言っているのも知っています(笑)。このへんにまだすごい文脈の違いがあるのかなと感じています。

YADOKARIの発言に真摯に耳を傾ける西田さん

ウエスギ)そういう面倒くさいところをこれから建築家やそちらの業界の方々がどうディレクションされるのかってことですよね。だって、西田さん的には、コストも掛かるし面倒だっていうのは確かなことじゃないですか。

西田)BETTARA STAND 日本橋が、工期1ヶ月のところをDIYによって3ヶ月で完成させたのは、建設業界からしてみたら、管理コストも掛かるしって思うわけです。でも、絶対、自分たちでDIYしたほうが愛着は湧きますよね。ひとりの建築家が「これを建てました」っていうよりも、「300人が参加してつくりました」っていったほうが、300倍の拡散力があります。ビジネスとしては、当然、合理的なほうがいいけど、面倒くさいことにコミュニケーションの新たな発見があって、つまり、そっちのほうがイノベーションが起こりやすいわけです。もしかすると自分の生き方につながる人と出会えるかもしれないし、発見したものを伝えたいという発信者も増えるかもしれない。きっと大きな会社になればなるほどやりづらいことでも、僕らみたいな小さな会社ならできるし、そこに十分なマーケットやニーズはあるんだと思います。

ウエスギ) そうですね。どうしてもDIY側に寄っちゃうんですけど、一方で、建物としてもやらなきゃいけない物理的な仕事ってありますよね。そのバランスがすごく難しく感じています。

西田)さっき話したMINI LIVINGの仕事をやりながら思ったのは、建築業界と一緒だなってことでした。クルマ業界って、高性能だとか安全性だとか流体力学だとか……、もうある成熟値まで達しているんですね。そこで勝負しても限界だなあっていうことは、はたから見ていても分かります。べつに僕が関わることで、クルマの性能をあげられるわけではありませんし。だとするとクルマがある生活をもっと楽しくできないか、と思ったんですね。そこで提案したのは、ハッチバックを利用してそこにいろんなものを積め込み、持ち出して、こんな世界観が広がりますよっていうこと。じつはこれって建設業界とまったく同じで、YADOKARIさんのところに、今いろんな不動産や建築系企業の方々が相談しに来られる理由も、僕はすごく分かるんです。安全性とか効率化とかやっていた業界の人たちが、このままやっていても伸びしろがないんじゃねえって感じているんだと思います。

ウエスギ)でも、そうやってちゃんと性能をあげて合理化してきたからこそ、今、いろんなところに選択肢が広まったという一面もあるりますよね。さっきのインターネットができたお陰で、場所にもしばられなくなったように。

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DATA
BETTARA STAND日本橋
東京都中央区日本橋本町3-10-1 宝田恵比寿神社横 駐車場跡地
PROFILE
YADOKARI
さわだいっせいさんは、フリーランスのグラフィックデザイナー。ウエスギセイタさんは、Webコンサル会社取締役を経て、ふたりは2011年にソーシャルデザインカンパニーYADOKARIを設立。これまで住まいや暮らしに関わる企画プロデュース、スモールハウス開発、オウンドメディア支援、空き家・空き地の再活用、まちづくりイベント・ワークショップなどを主に手がける。250万円の移動式スモールハウス「INSPIRATION」や小屋型スモールハウス「THE SKELETON HUT」を発表。全国の遊休不動産・空き家のリユース情報を扱う「休日不動産」、空き部屋の再活用シェアドミトリー「点と線」、新たな働き方を提案する「未来働き方会議」などを運営。著書に『アイム・ミニマリスト』『未来住まい方会議』『月極本』がある。YADOKARIオフィシャルサイトのほかに、7月よりタイニーハウスをツールにしたWEBメディア「タイニーハウスオースケトラ」がローンチしたばかり。