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ボクたちの
“パブリック”は、どこへ
向かうのか?#03

text:satoshi miyashita photo:akemi kurosaka illustration:awako hori

世代間の所有欲求

さわだ) 西田さんのシェアに関する考え方は、どうやって醸成されたものですか。 

西田) 僕はもともと都市のパブリックスペースが興味の対象としてありました。以前、『ロジホン』という都心における路地の研究本を首都大学東京から出版したこともあります。都心における空き地とか道路とか公園とかがどう使われていくのか。ここ(ヨコハマアパートメントの1階)は空き地ではないけど、1階の共有スペースを「広場」と呼んでいます。ここがうまく使われていくことによって、住人の生活が良くなったり、何が起こるか不確定な魅力が土着的なにぎわいに繋がるんじゃないかという意味でも、ヨコハマアパートメントは僕の興味が、具現化できたケースです。

2005年に、首都大学東京C0E路地再生研究チームから発行されたリトルプレス「ロジホン」

さわだ) ヨコハマアパートメントのところどころにあるギミックみたいな要素は実際に来ると見えてきますね。最近のシェアハウスは、建物の中だけでシェアされているケースばかりで、ここまで街との接点が考えられた空間は珍しいと思いました。

西田) シェアという言葉の背景に「土地を持つ側」、「家を持つ側」の所有欲求の変化もあると思っています。所有欲求自体は、戦後、高度経済成長をしているときの富の象徴でもあり、幸せの表現でした。そのいちばん大きなものが土地、住宅、クルマ。
 でも今の若い世代を見ていると、年収も増えない時代に、お金ばかり稼いでも仕方がないっていう意識があって、どちらかというと共有感とか、一緒に何かをしたりするほういいという方向にシフトしている。きっと住宅も、みんなで一緒に所有する感覚になっていくのではないかと。

ウエスギ) その感覚は世代によってかなり違うようにも思います。

1階の「広場」と呼ばれる共有スペースで語り合う3人

西田) たぶん今でも土地を持っている人たちの所有欲求は高いと思いますよ。だって、彼らはそれを獲得することが人生のひとつの目的だったわけだから。でも、若い世代は、そういうことよりも仲間たちと楽しい時間を過ごしたり、料理が好きなら、食材の豊富な場所で暮らしたいとか、何と自分が繋がると豊かなのかを見定めた、本来のライフスタイルに則した意識に変わってきているんだと思います。

さわだ) それって西田さんから下の世代の意識がですか?

西田) 自分たちの世代、もしくはその次の世代くらいにライフシフトは起こっている感じがします。でも、YADOKARIのふたりと僕はそんな年齢変わらないですよね(笑)。

さわだ) はい(笑)。西田さん自身にもそうしたいという願望があるんですか。

西田) 僕もそうですし、周りにもそういう仲間が増えてきたことは実感します。単純にデータを見ても、ここ15年間で日本人の平均年収は50万くらい落ちています。そうした時代に社会全体の目的がお金だけじゃなくなってきているのは確かです。そうなると、例えば、地方には比較的土地が余っているから、二拠点居住しようという人も出てきます。実際に、どこにいても仕事ができる時代になってきているし、家を持つことが以前より、カジュアルになっているんだと思います。

ウエスギ) そうですね。

西田) 日本の単身世帯率も30%を超えて、その結果なのか、タイニーハウスや小屋といった空間に注目が集まっています。小さくても自分が気に入った空間に住めればいいっていう考えの若い世代も増えていますよね。

1階は、キッチンやトイレも完備されたスペース

 
なぜ住戸数を4室に?

さわだ) ヨコハマアパートメントを拝見して、まず思ったのは、このスペースだと8から10室はつくれそうなのになぜ4室にしたんだろうという疑問でした。きっと収支のことを考えたら、不思議だなあと。

西田) もともとここには賃貸の長屋が建っていて、老朽化で建て替えようとした時に、オーナー自身が、住み手がアート作品を制作したり、住みながらいろいろできるような場にしたほうが、周辺の地域にとってもいいことだし、住み手にもメリットがあるんじゃないかっていう考えを持っていました。
 建てられる面積はだいたい150㎡くらいあるので、それを四分割したら1室36㎡というシミュレーションになります。でも、ワンルームで考えたら、そこに風呂もトイレもあって、収納もあったら意外と普通の賃貸じゃないかって思ったわけです。もちろん20㎡にして7室にもできましたが、それだとオーナーの意向にはそぐわない。そこで僕らが提案したのは、1室20㎡前後にした際に、残りの17㎡や18㎡を供出してもらえば、結果的に、70㎡の共有部できるんじゃないか。つまり使い方次第で住み手は全部で90㎡という空間を享受することできますよ、という方向で考えたわけです。

さわだ) 部屋はきちんと確保されている一方で、ここは共有部として使うってことですよね。

西田) そうです、あともうひとつ、沿線の賃料データって駅から物件までの距離で決まります。そのエリアで借りられる物件の賃料の平均値が出ているんですけど、それを分析してると気づいたことがあって、ある平米数を下回っても金額が下がらないということ。この辺だと賃料は最低6万円でした。そうすると、へんな言い方ですが、20㎡の部屋も35㎡の部屋も、6万円で貸されていたりするワケです。

ウエスギ) サイズうんぬんじゃなくて。

西田) そうです。そうしたら「これは家賃6万円に揃えれば競争できる」と思いました。共有スペースが付いていて、個室もあるので、長屋に住むよりも、こっちのほうが住み手の数もいるんじゃないかと。ただそういう事例がなさすぎて、オーナーはもちろん、関係する人から「本当に住み手が見つかるの?」と言われました。ただ僕は結構楽観していて、横浜市の人口って今330万人くらいはいます。つまり330万分の4人くらいは住みたい人がいるんじゃないかって(笑)。

ウエスギ) ハハハ(笑)。

さわだ) その考え方、別のケースでも使えそうっすね(笑)。

西田) 確かに、そうですね。

さわだ) 銀座の「中銀カプセルタワー」を、僕らはサテライトオフィスとして一時期賃貸で使っていましたけど、けっこうあそこに暮らす住人も、ここ(ヨコハマアパートメント)に近い感覚で借りているんじゃないかと思いました。つまり物件自体が好きで、集まってくる人たちも同じような価値観を共有している。人間同士のコミュニケーションとか、空間が好きだからここを借りたいと思えるような、そういう価値観が興味深いなあと。

ウエスギ) きっとオーナーさんの考え方もすごく成熟されていたんですね。

西田) そうです。自分の収益だけを考える人が多いなかで、人が集まる場所がないと、このエリアの良さも伝わらないとか、横浜市が文化政策をやっていて、クリエイターを応援しているので、そこにもリンクさせたいとか。オーナー自らはそういうことが好きで、いまも年に一回くらいオーナーが薦めるクリエイターの展覧会をやっていますよ。

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【過去の記事】
YADOKARI×西田 司「ぼくたちの“ライフ”と“ワーク”はどうなるのか?」#01
YADOKARI×西田 司「ぼくたちの“ライフ”と“ワーク”はどうなるのか?」#02

DATA
ヨコハマアパートメント
所在地:神奈川県横浜市
竣工年月:2009年6月 
担当:西田司+中川エリカ 

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PROFILE
YADOKARI
さわだいっせいさんは、フリーランスのグラフィックデザイナー。ウエスギセイタさんは、Webコンサル会社取締役を経て、ふたりは2011年にソーシャルデザインカンパニーYADOKARIを設立。これまで住まいや暮らしに関わる企画プロデュース、スモールハウス開発、オウンドメディア支援、空き家・空き地の再活用、まちづくりイベント・ワークショップなどを主に手がける。250万円の移動式スモールハウス「INSPIRATION」や小屋型スモールハウス「THE SKELETON HUT」を発表。全国の遊休不動産・空き家のリユース情報を扱う「休日不動産」、空き部屋の再活用シェアドミトリー「点と線」、新たな働き方を提案する「未来働き方会議」などを運営。著書に『アイム・ミニマリスト』『未来住まい方会議』『月極本』がある。YADOKARIオフィシャルサイトのほかに、7月よりタイニーハウスをツールにしたWEBメディア「タイニーハウスオースケトラ」がローンチしたばかり。