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ワークスタイル再考
#01
ルールとルールの
隙間を攻める!?

text:satoshi miyashita photo:akemi kurosaka illustration:awako hori

西田 今のPARTYの方向性を決めるきっかけになったような仕事ってありますか?

伊藤 きっかけになったのは、2006年に渋谷のセンター街で行った、Xbox360専用ソフト「ブルードラゴン」の発売記念イベント「INTERACTIVE WALL BIG SHADOW」です。
 現在、ヤマダ電機がある場所が、以前は駐車場で、そこを一定期間、そのイベントのために貸し切ったんです。そして隣のビルの壁に、人の影をプログラミングして投影し、人が踊るとその影がぶわーっと何十メートルと巨大化し、モーフィングして怪獣にもなったりする内容でした。
 ただ当時、イベントを開催する際にいろんな法規制が絡んできました。例えば広告物規制(※1)、ふつう広告には、ロゴがあって商品の写真がありますが、僕らは一切それを出さずに、駐車場の手前の案内図に特設の看板をつくって、そこに広告物を閉じ込めました。これなら広告物規制に引っかからず、結果、ビルの壁に映し出されている映像は広告物の対象外ということで許可が下りたんです。

(※1)良好な景観の形成、風致の維持、公衆への危害防止を目的とした規制(東京都屋外広告物条例及び同施行規則)。

西田 それは攻めましたね(笑)。

伊藤 渋谷警察署からは「人が殺到したときにどうするのか?」という指摘もされました。クリスマスの時期だし酔っぱらいが一気に道路を渡ったらもう交通事故でアウトじゃないかと。結局、警備員を増員させて道路にハミ出さないようコントロールしてくれるのならOKということになりましたけど。
 聞けば、過去に人気ミュージシャンがゲリラライブをやって関係者が逮捕されたり、そこで、いろいろやらかした場所だったんですね。

西田 やらかすというのは、イリーガルなことを?

伊藤 そうです。やっぱり警察もデリケートになっていたんだと思います。ただ僕はそういう問題をクリアしていくことがたまらなく楽しいんですね。

伊藤 今は、UI(ユーザーインターフェイス)とかUX(ユーザーエクスペリエンス)っていうワードがよく使われますけど、結構、パソコンとかスマホの操作、触り心地みたいな狭義の解釈に閉じ込められていますよね。
 でも本来、インターネットってインタラクティブ性があって、現実の世界で自分の影が巨大化されるって、ある種のVR(仮想現実)とかAR(拡張現実)で、今で言う「プロジェクションマッピング」のはしりだったんです。でも、そうした言語自体が当時はありませんでした。
 僕自身、「体験」を面白くするには、インターネットは最高の武器だと、2004年ぐらいから思っていました。2006年にようやく「プロセッシング」っていうプログラミング言語が出はじめて、同じ頃にプロジェクターのルーメン数(明るさの単位)も対応可能の数値になってきたんです。

西田 あ〜そうなんですね。

伊藤 当時の渋谷のセンター街だと、たしか5,000ルーメンのプロジェクターで4台を重ね打ちしないと、周囲が明る過ぎて壁に映りませんでした。

西田 「5,000ルーメン」のプロジェクターって、当時はめちゃくちゃ高価だったのでは?

伊藤 めっちゃ高くて、1台2,000万円くらいしました。当時まだ日本に5台しかなくて、それを4台借りて。予算は吹っ飛んじゃうし、とにかく、お金のやりくりと手間(許可取りなど)にすごい時間が掛かりました。

 
建築と法律

西田 法学部出身の伊藤さんほどじゃないですけど、建築家もかなり法律に近い職能と言われています。

伊藤 そうですよね。

西田 その中でも、僕自身は結構法律好きで、自分で「法律好き」っていう言い方もヘンですけど(笑)。一級建築士になるための試験にある「計画」「法規」「施工」「構造」などの分野のなかでも、「法規」はほぼ満点でした。
 法律のいいところはフェアだということです。伊藤さんが言われたように、解釈の仕方はこちらに任されていて、組織の大小に関係なく、誰もが同じ目線で勝負できるんですよね。
 多少、法律が読めれば、先ほどのセンター街の空地とか、古い物件とか、制度や法規をこうやって解釈すると活用できるよっていうことをクライアントに提示できますし、それによってデザインへの信頼度も上がると思います。今はまだそれを言語化できる人が多くないのも事実。僕は結構早い段階でそれがクリエイティブの土壌になることに気が付いたというか。

西田 ここ数年、ベイスターズと一緒に仕事していて、「コミュニティボールパーク化構想」っていう、スタジアムを街に向けて、開いて、良くしていこうみたいな取り組みをしています。

伊藤 あの仕事は素晴らしいですよね。

西田 ありがとうございます。2014年ぐらいから参加していて、主に行政とデザインの調整役をやっています。というのも、建物や公園にどう手を入れるかで、当時、ベイスターズと横浜市は揉めてたんですね。
 さっきの屋外の広告物規制のお話のように、横浜市側は「ベイスターズっていうフラッグを公園の周りに並べたら、屋外広告に掛かるからやめてくれ」と。ベイスターズ側は「興行によってお客さんも増えているし、街の活性化にも寄与しているのに、何たることか」と。さっきの駐車場の話と一緒ですけど、一企業の広告だからNGだったんですね。そこでフラッグを「I・☆・YOKOHAMA」(アイ・ラブ・ヨコハマ)っていう文字に変ええました。もちろん、☆はベイスターズの星です。
 つまり「横浜をみんなで応援しましょう」みたいな解釈にしたことで許可が下り、それ以来、一企業の利益に留まらず、公益的な目線でさまざまな取り組みを意識していくようになりました。横浜市との関係も徐々に良くなって、今ではお互いすごくいい関係になりました。

伊藤 いい話ですね。

西田 だから、さきほどの伊藤さんのお話を聞いていて、僕もすごく共感しました。人の多い渋谷のセンター街でよくやったなあと思って(笑)。消防や警察、行政サイドと協議ができる人、本当に少ないんですよね。

伊藤 最近はプロジェクトの規模も大きくなってきて、PARTY自体もやっぱり多様性が必要になっていて、ひとつのチームに建築家や弁護士が入ることが、当たり前になっていますね。 (>>#02へ続く)

これまでの記事
#01「ルールとルールの隙間を攻める!?︎」
#02「︎働く拠点はなぜ分散化するのか?」
#03「会社を溶かし空気のような存在に」

profile
伊藤直樹 naoki ito

71年静岡県生まれ。早稲田大学卒業。NIKEのブランディングなどを手がけるワイデンアンドケネディ東京を経て、2011年、未来の体験を社会にインストールするクリエイター集団「PARTY」を設立。サービス&プロダクト、エンターテイメント、ブランディングを軸に活動をおこなう。PARTYのクリエイティブディレクター兼CEOを務める。京都造形芸術大学情報デザイン学科教授、事業構想大学院大学客員教授。成田空港第3ターミナルの空間デザインでは、グッドデザイン賞の金賞を受賞。東京ミッドタウンDesign Touch 2017インスタレーション「でじべじ –Digital Vegetables– by PARTY」の総合演出なども手がける。メディア芸術祭優秀賞、NYワンショー、イギリスD&AD、カンヌ国際クリエイティブ祭、東京コピーライターズクラブなど、受賞歴は250を越える。「クリエイティビティの拡張、領域横断」をテーマに、表現のみならず、新規事業などのビジネスクリエイティブもおこなう。 PARTYでは、クリエイターのコレクティブオフィス「石(イシー)」グループとして、東京にTOKO、鎌倉にSANCIなどを展開中。また、スマイルズ遠山正道氏とアートの民主化を目指すThe Chain Museumを共同事業化している。展覧会に「OMOTE 3D SHASHIN KAN」(2012)、「PARTY そこにいない。展」(2013)など。著作に「伝わるのルール」などがある。作品集に「PARTY」(ggg Books)。(PARTYホームページより引用)