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Work Log
#07
佐久間 悠
(建物の法律家)

text & photo:koichi yoshikawa & akiko nishioeda (ondesign)
photo(top):tomomi ohno

 

今もっとも気になるワークスタイルを実践している方々を訪ね、これまでにない「働き方」や「新しい職業の可能性」を探るWork Log。リニューアル第2弾の訪問先となったのは「株式会社建築再構企画」代表の佐久間悠さん。建物に関わる人なら誰しも一度は苦しめられる “ 法規 ” のスペシャリスト 佐久間さんの、新しい働き方に迫ります。

 

⚖️ ⚖️ ⚖️

 

「建物の法律家」として建築法規に関わる数々の問題を解決している佐久間さん。オンデザインでも、複雑な法律が絡んだプロジェクトを佐久間さんと進めている。建物の法律家という言葉だけを聞くとなんだかとても厳格なイメージがあるけれど、初めてお会いした佐久間さんはつねに笑顔、とても物腰の柔らかな印象でどんな相談にもじっくりと付き合ってくれそうな空気を感じ取れた。

「法規」や「行政協議」は建築の仕事を進める上で避けては通れない。とても難しいものだと思っていたし、今でも苦手意識はある。だからこそ、建物の法律家である佐久間さんの存在はとても特別に感じた。ただ佐久間さんは同時に設計業務も行なっている。「建築士」としての考え方に、僕たちとはどんな違いがあるのだろう。


現在 |work style

自分の立つ位置を変えてみるだけで
物事の見え方が全然変わってくる

 

「基本的に働き方は一緒で、デスクワークですよ。もともとは設計業務がメインでしたが、徐々にコンサル的な仕事の割合が増えてきて、今は6割がコンサル業務をさせてもらっています。事務所の特徴的な部分としては、最初にまずやるヒアリングだと思います。僕たちの場合は“ヒアリング” を“診断”のように行っています。相談にこられた方の建物が法律的に健康な状態かどうかをまずは確認するんです」

「建物が“健康”かどうか」という表現は佐久間さんならでは。建物の健康状態を把握して、悪い部分を適格に治す、と考えると佐久間さんは建築のお医者さんなのかもしれない。

インタビュー取材は、佐久間さんのオフィスにて

「自分たちが役立てる仕事、という意味ではデザインだけを行う仕事ではなく、法規が絡むもの、建築の申請が難しく一筋縄ではいかないものを行います。再開発案件からビルテナントのコンサル、崖地に住宅を建てるための相談まで色んな相談を受けています」

ある意味、人の避けたいことを進んでやっているわけで、内心「一筋縄では行かない案件ばかりで大変そうだな」と思っていたら、佐久間さんは違う視点のもち方について教えてくれた。

「きっと複雑な法規の物件が他の事務所だと“めんどくさい”と思う部分なんですけど、そういう複雑な法規や権利関係が絡んだ仕事こそ自分たちにとって“旨味”がある仕事ですね。例えば、狭小敷地やいびつな形の敷地はハウスメーカーの人にとっては邪魔な要素だけど、アトリエ系事務所の人たちにとってはそれが『面白い案件が来た!』となりますよね。その感覚に似ています。」
 建築士の職能ってとても広いですよね。だから自分の立つ位置を変えてみるだけで物事の見え方が全然変わってくるんです」

「だから法規が複雑な案件がくると思わず“美味しい仕事だ!”と思えるんですよね」と言って佐久間さんは笑って語ってくれた。


過去 |origin

トップで引っ張るより
セカンドタイプの人間

 

佐久間さんの経歴を伺うと、もともとは設計事務所でバリバリ仕事をしていたそうだ。今の働き方に至るまでには何か大きなきっかけがあったのだろうか?

「僕は性格的に『みんなの前に出て、トップで引っ張って』というタイプじゃないんですよ。それよりもサポートするセカンドタイプの人間だと思っていました。それを強く意識するようになったきっかけは大学の頃の卒業設計です。そこでいろんな人を巻き込んでモノをつくっていくことの楽しさに気付いたんです。卒業設計って後輩をお手伝いに何人も付けて模型や図面をつくっていきますよね。そのお手伝いの後輩たちにどのタイミングで模型のパーツをつくってもらうのかとか、どのタイミングでご飯をおごったりするか、そういうマネジメントをすることにも楽しさを覚えました」

そんな佐久間さんだからこそ、セカンドタイプの人間がどのように独立して仕事をしていけばいいのかを学生の頃から考えていたのだと言う。だから建築法規の専門家になったのかというと、どうも違うらしい。

「法規のコンサルの仕事をするようになったきっかけは、独立後に自分が法規に苦しめられたからなんです。独立して間もない頃はお金を稼ぐためにもいろんな仕事に取り組むんですけど、それが法規の関係で止まってしまうことが多くて。原因はさまざまで、店舗ではオーナーとテナントの権利関係が原因であったり、マンション住人の共有部の改修が権利関係で止まったこともありました。そういうことが繰り返し起こって、このままじゃ独立して、もともとやりたかったインテリアの仕事ができなくなってしまうと思い、仕事の入り口として事前相談を受けるようにしたんです」

事前相談をやっていくうちにそれがビジネスになっていったと言う佐久間さん。周りにはフリーランチの納見さんや創造系不動産の高橋さんといったさまざまな視点をもつ仲間がいて、彼らと相談をしながら仕事のやり方を考えていったらしい。現在は、設計とコンサル業務はハッキリと分けているとのこと。

「コンサル業務を受ける時には、『設計の業務はできなくても構いません』と宣言しています。そうしないと自分が設計をしやすいような解決方法を選びそうじゃないですか。問題になっている事柄を俯瞰するといろんな解決方法があるはずなんです。その中でお客さんのためになる解決方法を考えるためには設計とコンサル業務は分けたほうがいいなと思ったんです」

佐久間さんの仕事への考え方は第一印象通り、とても誠実で、いろんな人から相談されるのも納得だ。


未来 |beyond work

人を育てていくことに
興味がある

 

「今考えているテーマは『次の人を育てる』ことかな。僕らの仕事は普通の設計事務所と違ってコンサル的な目線も必要なんですが、その感覚を養うには4、5年くらいは掛かると思います。だから事務所を大きくしていくことよりも、まずは人を育てていくことに今は興味を持っています。
 なのでスタッフに求めている能力はコミュニケーションをとる能力。悩みや要望をもってきたクライアントに対して、それを一つひとつ拾い上げて相手にとって何が最適なのかに気付けることが大切なんです。相手の利益をお金の面だけでなく総合的に捉えてよい状態にしてあげられるような仕事ができる事務所にしたいです」

相手を俯瞰する能力は、才能ではなくて相手に対して“興味”をもつことが大切なのだと佐久間さんは言う。

Tシャツに涼しげなアウターを羽織った気取らない格好で、出迎えてくれた佐久間さん。難解な案件もやさしくほどいてくれそうな安心感と心地よさ。話しやすい雰囲気は、そのファッションスタイルからも醸し出されていました

勝手な想像で、佐久間さんの仕事は「クライアントに正解を教えるうえでの膨大な法規の知識をもつことが大切なことだろう」と思っていた。

「知識も大切だけど、仕事を始めるとわからないことのほうが遥かに多い。案件ごとに一つひとつの扉を開いていくように解決していくんです。むしろ法規的にどこまでならできる、できないということをちゃんと共有できる関係性、その土壌をクライアントと一緒につくっていくことが大切だと考えています。
 建築の仕事には100点満点がないと思うんです。それでも『ここまでだったらいいかな』と言った妥協点を一緒に見つけられることを意識しています。それをお互いが納得できる関係性をクライアントと一緒に築いていくことが僕らの仕事の大事な部分です」📐


近況 |information

【出版】 
 ●著書
 『事例と図でわかる 建物改修・活用のための建築法規』  (学芸出版社:2018年 刊)
 ●インタビュイーとして登場
  『“山”と“谷”を楽しむ建築家の人生』/編:山﨑 健太郎西田 司 後藤 連平  (ユウブックス:2020年 刊)

profile
佐久間 悠 yu sakuma

1977年神戸市生まれ。一級建築士。株式会社建築再構企画代表取締役。京都工芸繊維大学大学院修了。大型公共施設の実績を多数有する古市徹雄都市建築研究所、商業施設の設計を得意とするTYアーキテクツ勤務を経て、2007年に独立。2013年より株式会社建築再構企画に改組・改称。同社の代表取締役を務める。新築及び内装デザインの設計・監理の経験を活かし、「建物の法律家」として、違法建築、既存不適格の適法改修に高い専門性を有する。個人住宅から上場企業の保有施設まで、幅広いクライアントに対して、サービスを展開している。第2回「これからの建築士賞」受賞(2016年)。


worklog取材チーム
西大條 晶子 Akiko Nishioeda/1983年 宮城県生まれ。2008年 明治大学卒業。電通テック、横濱まちづくり倶楽部を経て、’18年 オンデザイン。
吉川 晃一 Koichi Yoshikawa/1990年 東京都生まれ。2012年 工学院大学卒業。’14年 同大学院修了。’17年よりオンデザイン。