update

Housing Story
#02
手を加えながら
更新される心地良さ

text:naoko arai  photo:akemi kurosaka  illustration:ondesign

 

住み続けることで育まれる、家の価値とは何か? シリーズ2回目は竣工から8年目の「家と空き地」を訪ねます。月日の経過とともに刻まれる、心地よい暮らしのエレメント……。今回もいろいろな気づきをいただきました。

 
@神奈川・藤沢

 

 JR『辻堂』駅からバスに揺られて15分ほどの場所に広がる静かな住宅街。なだらかな起伏が続く傾斜地には、彩度の高い湘南の陽射しが似合う一戸建てが立ち並ぶ。
 そんな辻堂らしい建物が密集する住宅街のすき間から控え目に顔を覗かせている住宅が、今回の訪問先〈家と空き地〉である。

 この住まいの施主Sさん夫妻は、夫はサーフィン、妻はフルート演奏と、趣味がインドア・アウトドアで正反対。加えて、ともに個の時間を尊重する価値観を持ち、家を建てる前から夫婦の時間と個の時間とをメリハリつけて過ごしていた。
 その暮らし方を聞いたオンデザインの担当者は、異なる趣味時間を互いにストレスなく過ごせ、二つの趣味と夫婦の暮らしが自然に成り立つ住まいを考えた。

 

気配を感じるのに、別の家感覚

 夫婦それぞれ個室を持ち、趣味の時間は自由に過ごすというプランは、それ自体さほど珍しいことではない。でも、オンデザインから提案されたのは、小さな家を2棟建てるかのようなプランであり、それでいてオープンな陳列棚のように各居室がリビングに向かって開放されているという個性的なプランだった。

 「思い切った家にしたい」とオーダーしたものの、さすがのSさんも度胆を抜かれたという。

 

 「おそらく初めてこの家に入ったとき誰もが同じ感想を持つと思うんですが、『この家でちゃんと暮らせるのか?』『ちょっと行き過ぎじゃない?』という印象でしたね、提案をいただいたときは(笑)。
 僕の趣味の部屋は、リビングからも妻の部屋からも丸見えなのに室内から上がれなくて、靴を履いて外階段から出入りするんですよ(笑)。そして吹き抜けのリビングがこの家の“庭”だと。このプランを素人が発想できるわけがないですよね。でも、ありきたりの家じゃないプランをお願いしたのは自分たちだったし、せっかく建築家に家を建ててもらうのだから後悔のないように建てたいとは最初から思っていました。
 だから、このプランで建てると決めるまでにたくさんの生活シミュレーションをして、夫婦で納得がいくまで話し合いました。そのうち、僕の棟の2階が外階段なのは、『ガレージが欲しい』と言っていたからだとか、各個室がオープンなのは『それぞれ勝手に過ごしていても気配は感じたい』という要望の解決策だと一つひとつ納得して、次第に“この家こそ自分たちの暮らしに合っている”と思うようになりました」

 

 じつはSさん夫妻、オンデザインに出会う前にほかの建築事務所や工務店を5、6軒回ってプランの相談をしている。でも、そこからはSさんの想像を超えるような提案は出てこなかったという経験があった。

 「どんな家にしたいかをプレゼンするんですが、自分たちは素人ですから、開放感と言えば『吹き抜け』とか、趣味の部屋といえば『ガレージ』とか、言えることって限られてしまうんですよね。そうやって具体的な空間を言ってもその答えは想像している範囲でしか返ってこないんだっていうことが次第にわかってきて。
 だからオンデザインさんに初めてお会いしたときに、家づくりの進め方というか、アプローチの仕方は全然違って驚いたんです。どんな家にしたいかとかは全然聞いてこなくて、お休みの日は何をしているのかとか、どんな店で買い物や食事をするのかとか、読んでいる雑誌や本は何かとか、家のカタチの話はほぼしない。
 そういう意味では提案された家は想像もしなかったプランだったんですけど、実際に暮らし始めてみると思いのほか違和感がないというか、ものすごく自然に暮らせて、自分たちもあっけにとられたくらい。だから自分たちは変わった家に住んでいるという感覚がまったくないんです」

 

自由な暮らしはさらにパワーUP

 設計図や模型の段階では“思い切った家”だった〈家と空き地〉も、2011年の完成から早8年。すっかり夫妻の暮らしとフィットし、家も少しずつ進化している。

 「もともと家を建てる段階で完璧にしたいタイプではなかったんで、とくに趣味の部屋なんかは『ガランと空けておいてほしい』とお願いしたくらいで。実際に暮らしながら自分で手を加えていきたいという思いが強かったですね。
 2階の趣味部屋の手すりはチェーンだったんですけど、サーフボードを立てかけられるようにフェンスをつけたり、サーフボード用のラックも手づくりしたり。両面時計や洗面の棚、階段や吹き抜けに面した手摺りも少しずつ手を入れて機能性もよくしてきました。キッチンにも簡単なダイニングテーブルになるようなカウンターをつけたり、リビングの床の高さに合わせてデッキを作ったり。
  みんな自分で手を加えてきたものばかりです。ひとつ手を加えると暮らし方も少し変化するから面白いですよね。とくにリビングの窓辺にデッキをつくったのは大きかったです。いつの間にかこの窓が玄関代わりになったり、サーフィンから帰ってまったり過ごす時間もこの場所になって。暮らしながら何かをつくって、出来上がっては暮らしが更新されていく感じです」

 この8年でSさんにもさまざまな変化があったようだ。

 「この家のおかげなのか、以前にも増して自由になっていったというか(笑)。家を建てた当時はまったく考えられなかったんですけど、ロングボードにも乗るようになって板が11本まで増えてしまいました(笑)。
 僕らは夫婦ふたり暮らしですし、常に一緒に居ないとダメなタイプでもない。お互いの価値観や時間は尊重したいから、今の自由なスタイルが本当に心地いいんです」(了)

左:施主のSさん、右:設計を担当した稲山さん(現在はオンデザインを独立)

 

 

お施主さんから学ぶ
心地よく暮らし続けるための3か条

家を建てる段階で完璧にしない
夫婦の時間と個の時間とをメリハリつけて過ごす
ひとつ手を加えると暮らし方も少し変化するから面白い