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Housing Story
#04
仕事場と住空間との
心地よい距離感

text:naoko arai  photo:akemi kurosaka  

 

住み続けることで育まれる家の価値とは何か? 今回は都心の一角に佇む「写真スタジオのある家」を訪れます。ワークスペースと自宅とが隣接したコンセプチュアルな住宅も竣工から10年が経過。空間の使われ方に、どんな変化があったのかレポートします。

 

@東京・中目黒
(竣工時の写真はこちらよりご覧いただけます)

 

 

 誰にとっても自宅を新築することは一大事。しかもそこが、オフィス機能を兼ね備えた家であったならばなおさらのことだろう。「たてもの探訪」4軒目となる『写真スタジオのある家』は、そんなオフィス兼自宅のなかでもより難易度の高い特殊なケース。というのも、この家の施主であるご主人の職業は写真家。デスクワークができる部屋をひとつ余分につくれば事足りるわけではなく、撮影用のスタジオ、パソコンを使った作業をするデスクスペース、プリンターなどの設備機器置き場、さらには膨大な撮影機材と撮影用の備品、資料や掲載誌など書籍の保管場所も必須。仕事場の機能は複雑で多岐にわたり、当然広いスペースが必要になる。

  「この家を建てるまでは、夫婦と子供ひとりのマンション暮らしで、僕は外にスタジオを借りていました。それ自体に問題があったわけではないんですが、やはりこの仕事をしているとスタジオを自分で持ちたいと思うものなんですよね。年齢的な部分や仕事のタイミングを見て、自宅兼スタジオを建てようと決めました」

 当初は田園調布や世田谷など都心から少し離れた場所を検討したというが、仕事場を兼ねることから徐々に都心方面にシフト。タイミングよく中目黒駅の近くに理想的な土地が見つかり、オンデザインに設計を依頼した。

  「特殊な家になるだろうと思っていたので、最初から建築家にお願いしようと思っていました。本や雑誌で調べているなかでオンデザインさんを知り、設計した建物が気に入ったのはもちろん、西田さんが書かれた文章やメールの文面から、仕事に対する姿勢や考え方にとても共感しました」と、オンデザインに決めた経緯を話す。

 

空間を有効に使うスキップフロア 

 建設地の敷地面積は30坪強と都心部に建てる住宅としては十分な広さだったが、第一種低層住居専用地域という建築規制の厳しい住宅街に位置することもあり、建物は高さも床面積には制限がある。

  「設計に関して要望したのは、スタジオと住居は完全に分けること、できるだけシンプルにすること、採光がうまく取れるようにすること。決して大きな土地ではないので、土地を有効に使って縦に長く見えるように、ミニマムな感じにライン取りできるような設計になればいいなと。土地の形状やスタジオという用途もあって、スキップフロアみたいな感じになるのかなとはなんとなくイメージしていました」

上階へとつながる階段部分

 スタジオ部分は、撮影や作業、打ち合わせに必要なスペース、用途や機能、光の入り方など明確に要望。そのなかで決まったプランが、バランス良く自宅とオフィスが入れ子になったスキップフロアだった。

  「僕が撮影しているのは時計やジュエリー、化粧品など、ほぼ決まっていたのでスタジオの広さや撮影に立ち会うクライアントの待機スペース、PCやプリンターを置く作業スペース、動線は明確にシミュレーションできました。持っている機材の数やサイズも測って保管スペースもつくりました。写真を撮るという仕事上、どうしてもこのくらいのスペースが必要なんですよね。そういう意味ではどうしても住宅の面積が限られてしまう部分はありました」

仕事場となっている地下の写真スタジオ

 確かに一般的なオフィス兼自宅に比べると住宅部分が少なく感じるかもしれない。でも実際に住居部分に入ってみると、まず玄関から真っ直ぐ伸びる長い階段が雰囲気のあるアプローチになり、それだけで十分な奥行き感を出している。階段の中間地点となる1階部分は地下スタジオの吹き抜け上部と窓を介してつながりを持たせ、互いの空間をより豊かな空間に見せている。そこから最上階に向かって階段を上ると、キッチン、ダイニング、リビングがひとつになった大空間。ワイドな窓の外には庭に植えたジューンベリーの葉と広い空が広がり、駅近くの都心とは思えない風景だ。奥さんにも話しを聞いた。

  「周辺は線路も駅も近くなんですが、一本道を入るだけですごく静かなんですよ。ここは少し高台になっているのでリビングの開口部からの景色も開けていて気持ちいい。朝日が入る時間帯は本当にきれいです。緑を目にしていたいのでジューンベリーの木を植えたんですが、緑や花と違って、実がなるという楽しみがあって、この木にして本当に正解。実りの季節が近づいてくると、今年はどうかなって、毎年ワクワク感があるのは家族のつながりも深めてくれますね」

毎年テラス越しに実るというジューンベリー

 

仕事と暮らしの距離感を図る

 念願のスタジオ兼自宅を完成させてまもなく丸10年。ご主人にとって自宅と仕事場が同じということは、一日のほとんどをこの建物内で過ごしているということ。その居心地を伺ってみた。

  「スタジオ部分に関しては自分の理想を形にしていただいたので、本当に使いやすい。良い光が入るのも気に入っています。光が季節や時間帯によって変わるのもいいですね。限られた空間のなかでベストな回答だったと思っています。この10年間は仕事のほとんどをここでしていますけど、まったく飽きずにモチベーションを保つことができるというのはこの空間だから。仕事場と家の距離感って人によっても違うし、似た人でもお互いの年齢やタイミングによっても変わると思うんですよね。職住一体が辛いときもありますけど、逃げる方法は空間だけではなくて趣味であったりもするわけで。僕も通勤したくなったこともあって、自宅の玄関を出て一度駅まで行ってからスタジオに入るというようなことをやった時期もあるんですけどね。でもあまり意味ないのですぐにやめました(笑)。幸いこの10年間、仕事は順調ですし、クライアントにもこのスタジオの環境は好評です」

 一方、奥さんは広告代理店に勤め、一般的な通勤をしているが、妻の立場として夫の仕事場が隣接することは安心感につながったと話す。

主寝室などがある1階フロア

  「彼は仕事に集中するとご飯を食べることも忘れてしまうタイプ。スタジオが離れていたときは家になかなか帰ってこないですし、ご飯をちゃんと食べているのかもわからない。心配ばかりしていましたね。でも今は2階のリビングに居ても1階の窓を介して撮影していることがわかりますし、どんな食生活をしているかもわかる。そういう意味では、ここに住んでから喧嘩することが格段に減ったかな(笑)」

1階からガラス窓越しに、ご主人の仕事場を伺う

 この10年間で当時、小学生だった子どもは大学生になった。奥さんのワークスタイルも変わり、家族みんなの暮らし方にも少しずつ変化が見えはじめたという。

  「この家を建てた当初、私が家で仕事をすることはなかったんですが、ネット環境が進化して今ではどこでも仕事ができるようになったから家に仕事を持ち帰ることが増えたんですよね。最近はダイニングテーブルで仕事しているんですけど、資料も多いですからテーブルの半分がつぶれちゃう。そうすると、やっぱり個室がもうひとつ欲しかったな、という話になるんですよ。
 でも、今年に入ってから美大に通う娘が大学の近くにアトリエを借りることになって、家で過ごす時間が減ったんです。子どもが独立するという未来がリアルになったというか、子どもが成長したことで私たち夫婦も家も10年経ってしまったんだということに気づかされて。娘が本当に独立したらその頃にはもう仕事してないかもしれないねとか、(主人と)未来の話をするようになってきて」(奥さん)

 ご主人も続けた。「そう、僕も10年後、これまでの10年間と同じペースで仕事をしているかというと、やっぱり年齢や体力的な部分を加味していろんなことが変わっていくと思うし、徐々にペースダウンしていくんじゃないかと思うんです。そうなったときに、この建物の半分のスペースを占める仕事場をどうするかという課題が見えてきたんです。実際には明確な計画があるわけではないけれども、あと何年かしたらスタジオ部分も彼女と共有する場にしたいとか、ふたりともモノをつくる仕事をしてきたのでスタジオをそういう場に変えることもできるのか、とか。将来スタジオを使ってワークショップをやったり、妻が料理教室を開いたり、何かオープンな使い方もあり得るんじゃないかという話をするようにはなりました。
 これだけの空間があるので住宅とスタジオの動線をつなげるとか、配分を変えるとか、いろいろな方法があり得ると思う。シンプルにつくってあるぶん、変化の可能性を秘めた箱だと思うんです。そういうことを考えるようになって気付きましたが、家をひとつ建てると夢が広がるし、本当に豊かな気持ちになりますよね。設計の段階から夢を描いていたわけですし、実際の生活のなかでもそういう夢の連続で、これからもどうするかという楽しい夢をいつまでも持っていられる。ずっと未来をみている感じで、すごく贅沢なことだと感じます」

illustration : sho shiowaki ( ondesign )

 

 

お施主さんから学ぶ
心地よく暮らし続けるための3か条

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