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新シリーズ!
Housing Story
竣工7年目の
7坪の家「Fika」

text:naoko arai  photo:mori koda  illustration:kimiko enomoto(ondesign)

竣工から月日が経ち、あらためてその“家”を訪れてみる、そんな連載企画がスタート。住み続けることで育まれる、家の価値とは何か?  探し求めるとその先には施主と建築家と“家”とによるアナザーストーリーが見えてきました。近い将来、家を建てたいとお考えのみなさん、必読のシリーズです!

 
@東京・池袋

竣工から7年が経過した現在の「Fika」の外観。竣工時の写真はこちらよりご覧いただけます

 
家が教えてくれた、
オープンに暮らす心地よさ

 郊外に伸びる私鉄沿線らしいのんびりとした住宅街を歩くこと5分ほど。ブロックをポンッと置いたようなこぢんまりとした建物が見えてくる。ここは、北欧雑貨店『Fika』の店主であり、フリーランスのライターでもある塚本佳子さんの店舗兼住宅だ。
 塚本さんがこの家を建てたのは今から約7年前。賃貸住宅では満足のいく暮らしは難しい、かといって新築マンションに理想の家はみつからないと思い悩んだなか、“土地を買って家を建てる”という決断をした。しかも、当時は編集プロダクションに勤める会社員という身でありながら、週末限定の雑貨店を持つという大胆な決断もいっしょに。
 「昔から店の主というのに憧れていて。店番をしながら原稿を書くってカッコよくない? とか(笑)。その気持ちが30代半ばくらいに固まってきて、それがちょうど家を建てようと思った時期と重なったので、だったら家と店をくっつけちゃおう! と」

 土地探しから建築家紹介まで家づくりをサポートしてくれるコーディネート会社の力を借り、家づくりがスタート。そのなかで紹介されたのがオンデザインだった。
 「初めてオフィスにお伺いしたとき、家の模型がたくさん置いてあって。模型って真っ白だと思っていたんですけど、オンデザインさんの模型はドールハウスみたいにつくり込まれていて。それを見ただけで丁寧なお仕事をなさるんだな、と感激して。コーディネート会社にはほかにも建築事務所も紹介すると言われたのですが、すべてお断りしてオンデザインさんにお願いしました」
 そこからオンデザインと塚本さんの家づくりがスタート。当初、塚本さんのオーダーはじつにシンプルなものだったという。
 「(要望は)明るくて風通しがよくて開放感があって、将来的にお店ができるようにと、それだけでしたね。あとは、(オンデザインの)西田さんと一色さんのヒアリングにお応えしただけです。でもそのヒアリング力がすごいんですよ。どんな暮らしがしたいですか? というような漠然とした質問ではなくて、どんなものを持っているかとか、どんな趣味があるかとか、具体的なことを取りこぼしなく聞いてくれて」
 地道なヒアリングと対話を繰り返しながら計画は進み、家が完成したのは2012年の秋。ショップとしての『Fika』は翌2013年春にオープンした。

2012年竣工時のFikaの模様

 
仕事に対する価値観の変化

 暮らし始めて7年余、店主になってから間もなく丸6年が経つ。この間、塚本さんの暮らしには大きな変化があった。
 「一番大きな変化は、会社を辞めてフリーランスになったこと。家を建てたときは一生この会社で働くぞ、と腹を括ったつもりだったんです。それは会社が好きというより、あくまでも経済的な意味で。でも、この家を建てるなかで仕事に対する価値観が変わってしまって。私、会社や仕事って苦しいのが当たり前で、楽しく仕事をするっていう発想がなかったんです。でも、オンデザインのみなさんも大工さんたちも楽しそうに仕事をしていて。私、何やってるんだ? このままでいいのか? という疑問がどんどん大きくなっていって」 
 その思いが積もりに積もり、家を建てた2年後、思い切って勤めていた会社を退社。目の前には自分が想像していたものとはまったく違う世界が広がっていたという。
 「もっと不安な気持ちになると思ったんですがまったくなくて(笑)。不安よりもストレスがなくなった開放感のほうが断然上回って、逆に清々しい気持ちでしたね。それまでの仕事って何だったんだと思ったくらいです」

 
プライベートと仕事はひとつ!?

 “新しい家での暮らし”“Fikaの店主”……ライフスタイルの変化は、やがて塚本さん自身の性格にまで変化をもたらすようになったという。
 「もともと知らない人が大勢いる場が苦手なタイプで、人とのコミュニケーションもあまり得意ではなかったんですが、この家に住んでからすごくオープンな人間になりましたね(笑)。今思えば、道路に面したあの大きな窓を受け入れたところから何かが変わったんだと思います。それまでは、プライベートと仕事はきっちり分けたいとか、オートロックで守られたマンションがいいとか、全然、違う価値観だったんです。それが街に対してオープンな家で、しかも店舗ですからさらにオープンで、そんな“箱”に住んでいたら自分までオープンになってしまって(笑)。テレビや雑誌で何度か紹介いただいたので家を見に来る方も多いんですが、そういう方には2階まで上がってもらうこともあって、『家の中も見せてもらえるんですか?』と逆に驚かれたり(笑)。以前の自分だったらプライベートを知らない人にさらけ出すなんて考えられませんでした。生活にしても、プライベートと仕事という概念自体がなくなった感じ。仕事の予定もプライベートの予定も、すべて“単なるひとつの予定”という感覚です」

 
店と家がますますシームレスに

 そうした気持ちや価値観の変化は、家自体の使い方、店の在り方の変化にもつながっていく。
 「去年の暮れから、編み物や味噌づくりなどワークショップを始めました。もともとワークショップに参加するのは好きだったんですが、自分でスペースを借りてワークショップを主催しようとはなかなか思わなかったんですよね。でも、Fikaという場があるから、『自分でワークショップできるんじゃない?』という気持ちになって。今の私自身の人とのつながりはすべてここを拠点にしているというか、ここがあるから成り立っているという感覚。もし私がオートロックで街と遮断されたマンションに住んでいたら、フリーランスの仕事もここまで広がらなかったと思うんです。人とつながれる場として、家ってすごく貴重で、街とつながる場がある強みを日々実感しています」
 Fikaで行われるワークショップの会場は、2階のプライベートスペース。当初の計画では正式な店舗スペースは1階の一部だったはずなのが、次第にプライベートスペースもパブリックな場に開かれていっている。
 「将来的には作家さんの展示会のようなイベントのときは2階も土足にして店舗として使ってもいいかな、と思っているんです。すでにワークショップで2階も使っていますしね。あと、窓が大きくて家じゅう明るいので、近々ハウススタジオとしても開放しようと思っています。スペースが限られているので撮影できる物は限られますが、料理や小さい物なら自然光できれいに撮れますので。もはやどこまでがお店でどこからが家なのかわからない(笑)。でもせっかくこんな素敵な家をつくってもらったのだから、自分で使うだけじゃもったいない。もっともっとみんなに開放していきたいです」(了)

現在のFikaの模様

 

今回の家「Fika」から学ぶ
心地よく暮らし続けるための3か条

街にも人にもオープンに。
家具やレイアウトは使いやすさを追求して日々アップデート。
 人を招いてたくさん家を褒めてもらう。