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考察#01
“デザイナーズマンション”
というブーム以前以後

 
リーマンショック以降の二極化とシェアハウス

 分譲の集合住宅にも変化が見え、51-C型(1951年に誕生したDKをもつ、公営住宅標準設計)をベースにした2DKの公団から変化して1970年代にマンション田の字型プランと呼ばれる、南北に長く南側にバルコニーと2室、中央にリビング・ダイニング・キッチン、北側に1室と水回りという型にはまったプランから脱却する物件もいくらか登場してきました。
 ところが、分譲は住み替えで売るときのことを考慮すると、それほど大きな冒険ができず、リーマンショック以降の経済効率優先から元の田の字型プランに戻っているようにも感じられます。
 また、タワーマンションの出現で同じ住戸プランであっても、階層の違いでヒエラルキーが生まれ、その場合最上階はペントハウスとして高級物件となり、下階になるほど眺望が望めなくなることから低価格となり、価格の二極化が進み、賃貸や分譲では高額物件と低額物件から売れ、(階高も価格も含め)中間層の物件が売れ残る現象が起こっています。
 そして、2008年には建築家が設計したデザイナーズマンション物件でありながら、〈TEO〉(設計:ヨコミゾマコト)は住戸面積が10㎡を切り、都心にあってトイレ・シャワー付きで(浴槽はなし)、ドラム式の洗濯機も備わっていて、賃料も10万円/月(竣工当時)を切るものでした。ただし、シャワールームはガラス張りでいいのですが、玄関ドア脇に便器がむきだしのまま設置され、部屋というよりはユーティリティで、都市居住のための機能を備えた究極の最小限住居という印象でした。

TEO(2008年)/設計:ヨコミゾマコト

TEO(2008年)/設計:ヨコミゾマコト

デザイン物件からシェア物件へ

 2010年代に入るとある時期に共同生活をする居住者同士が積極的に関われる、つまり寝るスペース以外はすべて共用スペースとしたシェアハウスが登場してきます。
 成瀬・猪熊建築設計事務所が手がけた〈LT城西〉(2013年)は、大きな家のようなスタイルの住まいで、他人同士が自然に場を共用して住み続けるための仕掛けが施されています。社員寮などゆるやかなつながりをもった人たちが集まって住むための施設は以前からありましたが、そうではない他人同士が突然共同生活をするにあたり、パブリックとプライベートの図式的な対比を超え、さまざまなスペースが連続的につながる居住空間を成立させています。
 また、オンデザインが手がけた〈ヨコハマアパートメント〉(2009年)は共同住宅であってシェアハウスではないのですが、1階を近所に開いた半屋外の「広場」をつくり、その共用スペースではアーティストの製作展示や週末のパーティなどができ、居住者同士だけでなく、地域住人ともつながりがもてるような仕掛けが施されています。広場という共用スペースをもった集合住宅は管理や運用の問題はあるものの、ある意味地域社会に開かれたシェアハウスといえるのではないでしょうか。
 さて、デザイナーズマンションの誕生から今日まで、集合住宅の変遷を、かなり駆け足で辿ってみました。
 かつては地域の共同体(コミュニティ)といったわずらわしさから逃れるために、あえて都市居住を好む人たちが多くいたのに、ここ数年の傾向は、それとは逆に、若い頃のある時期に、シェアハウスのコミュニティに属して、大家族のような環境のなかで(また、体育会系サークルのノリで)、暮らしてみたいという人が増えているように感じます。
 それは、かつてデザイナーズマンション・ブームの時代に、ちょっと変わった空間に暮らしてみたいと思っていた若い人たちの感覚ともすこし重なるような気がしてなりません。

LT城西(2013年)/設計:成瀬・猪熊建築設計事務所 photo:masao nishikawa

LT城西(2013年)/設計:成瀬・猪熊建築設計事務所 photo:masao nishikawa

ヨコハマアパートメント(2009年)/設計:オンデザイン(西田司+中川エリカ) photo:kouichi torimura


1980年代以降から見てきた集合住宅で、僕がちょっと気になった物件リスト
アトリウム(1985年) 設計:早川邦彦
ALTO B(1997) 設計:谷内田章夫
洗足の連続住棟(2006年) 設計:北山恒
森山邸(2006年) 設計:西沢立衛
TEO(2008年) 設計:ヨコミゾマコト
・練馬のアパートメント(2010年) 設計:長谷川豪
ヨコハマアパートメント(2010年) 設計:オンデザイン
12のストゥッディオーロ(2009年) 設計:CAt
TreForm(2012年) 設計:小川晋一 千葉学 西沢立衛
LT城西(2013年) 設計:成瀬・猪熊建築設計事務所
ホシノタニ団地(2015年) 設計:ブルースタジオ
コーポラティブガーデン(2016年) 設計:オンデザイン


profile
鈴木紀慶 noriyoshi suzuki

1956年、神奈川県生まれ。武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。インテリア系の編集会社を経て、フリーランスに。雑誌「ブルータス」「カーサ・ブルータス」などのほか、書籍、PR誌などで執筆。『66人の建築家がつくった「たったひとつの家」』(世界文化社)ほか、著書多数。http://suzuki-e-works.com